剣岳・八つ峰主稜下半部登攀

山 行 日      2005年9月9日(金)〜14日(水)

同 行 者      三好一賢、木下 荘、以上2名

場   所       剣岳・八つ峰主稜下半部登攀

状況・記録

  今回の山行はいろいろなことがあった。昨年撤退した剣岳八つ峰主稜下半部、2年にわたってトライしたバリエーションルートである。今年はどうにか完登はしたが、1日で登る予定がビバーグする羽目となってしまい、真砂沢ロッジのご主人、佐伯成司氏はじめ富山県防災航空センターのみなさん、そのほか関係者の方々には大変ご心配、ご迷惑をお掛けする結果となってしまった。この様な結果になったことに対して心からお詫びを申し上げます。特に真砂沢ロッジのご主人、佐伯成司氏には多方面にわたってご手配を頂き、ご自身でも登攀地点まで捜索にきていただくなど大変ご苦労をお掛けしたこと、そのお心遣いに感謝するとともに改めて心から、お礼を申し上げます。ありがとうございました。

 この山行は7月下旬に一度計画していたが、台風7号の影響で中止。今回も天候に不安があったが、もし雨ならば無理はしないことで出掛けてきたものだった。

9月9日(金)晴れ

  近鉄特急で八木駅から名古屋へ。名古屋名鉄バスセンターで同行する三好氏と合流して、予約していた高速バスで富山へ。富山着17:45。富山泊り。

9月10日(土)晴れ
  
 
電鉄富山駅5:36分に乗車。岩峅寺〜千垣駅、間は8月の雨のため土砂崩れがあり、バスによる代替運転がある。立山駅からケーブルカー、バス経由で室堂へ。昨年は剣沢小屋泊まりであったが今回は真砂沢ロッジ、午後からは雨の予報もあったので室堂で例年通り「ます寿司」を買ってすぐに出発。真砂沢ロッジ到着3:30。

 真砂沢ロッジを訪れるのは今回が初めてである。真砂沢は昭和30年代初め山岳会入会直後の夏山合宿の幕営地。水浸しになったシュラフに寝た記憶が、昨日のことのように思い出され大変懐かしい。もちろん、その頃はロッジは建っていなかった。この場所に周囲を石垣で囲まれたネパールのバッティ(ロッジ)風のロッジが建っていた。だんだん華美になっていく最近の山小屋にあって、ここはクライマーが集まる小屋らしく小さな受付の近くには多くの登攀用具がぶら下げられている。今日は夏山シーズンも過ぎたためか宿泊客はわれわれの他に一人だけ。
 
 18:00頃から雨が落ちてくる。夕食後、お客をつれて今日、八つ峰を登ってきたガイドの島田和昭氏から状況を聞く。やはり帰りの雪渓の状態は悪いらしい。彼らはテント泊まり。

9月11日(日)雨
  
 予報どおり雨。沈殿のつもりでいたが、9:32小屋出発で登攀取り付き地点まで偵察に出掛ける。長次郎雪渓は出会いから少し上でクレバスのため雪渓通しはダメ。八つ峰側のガレ場から迂回する。
 
 1・2峰間ルンゼは昨年の場所から取り付けそうだ。が長次郎谷上流の方は雪渓が完全に切れていて滝状態になって水が流れている。登攀終了地点の5・6のコルからの帰りが気掛かりだ。雪渓が完全に切れているところまで行って引き返す。帰路、雪渓の状態も悪いし、雨の直後のルンゼもいやらしいし、明日は晴れても当初の予定通り下山しましよう、と話ながら小屋へ戻る。17:30。
 
9月12日(月)晴れ 
 

 
朝起きてみると快晴。こうなると登らないわけにはいかない6:00に出発。7:10出会いで朝食。昨夜同宿した女性二人と軽い怪我をした男性、男性の荷物をボッカすることになったロッジの青年の4人が、われわれに手を振って剣沢を登って行くのが見える。怪我をしていた男性もトップを歩いているので大丈夫なのだろう。

 われわれは、どうにか渡れそうな昨年と同じ場所のシュルントを渡り登攀を開始する。昨年、左のハイマツのブッシュ帯に入り込み撤退した記憶が潜在的にあり、右へ右へと寄り気味にルートをとってしまう。とにかく、ルートの迷走もあり、登攀スピードの問題もあり、で1・2峰間ルンゼを登り切っって稜線にでたのが18:35となってしまいビバーグを決定。岩に荷物を固定、セルフビレイをとり、狭いスペースに二人座ったままツエルトを被り永い永い夜が始まる。強い風がツエルトを叩くが雨は落ちてこない。明日の晴天を祈るのみ。

9月13日(火)晴れ

 30分位は寝ただろうか。午前4:35、気温は14℃、昨夜も余り気温は下がらず助かる。気掛かりだった天候もどうやら大丈夫な様子。ツエルトをたたみ登攀準備に掛かる。天候が崩れない内に登り切ってしまわなければ、とすぐに2峰への登りに掛かる。緊張しているせいか睡眠不足は余り気にならない。
 
 2峰で2回、3峰1回、4峰では2回の懸垂下降と順調に進み、5峰のやせ尾根を腹這いになって登攀中、ヘリコプタ−が飛来、われわれの周囲を何回も何回も旋回して、聞き取りにくかったが「木下さんと三好さんですか?もし、そうなら両手で頭上で○をしてください」と呼びかけている様子、○をすると「自力で下山できますか?OKならばヘルメットを手で叩いて下さい」と再度の呼びかけ、ヘルメットを叩くと東の方へ飛び去っていってしまう。多分、真砂沢ロッジからの依頼で見回りに来てくれたのだろう。その配慮に感謝しながら、遊びで多くの方々にご心配、ご苦労をお掛けすることになって申し訳ない気持ちで一杯。早く小屋へ戻らなければ、と気が焦る。

 5峰へ登った後、長次郎側への3回の懸垂下降で5・6のコルへようやく降り立つ。ガレ場を下って長次郎雪渓へはシュルントもなく簡単に降り立つことができた。一昨日の偵察の時に気掛かりだった滝状態のところは、その上流の渡渉箇所を源次郎尾根側に渡り1・2峰間ルンゼの対岸の位置から雪壁を登って3:57、一昨日確認した雪渓上に立つことができて、やっとホットする。

 
小屋へはPM5:30に帰着。小屋の主人佐伯氏が出迎えてくれ「こちらで勝手に判断してヘリコプターでの見回りを依頼しました。お二人は昔から山をやっておられる、と聞いていたので大丈夫だとは思ったのですが、万が一のことがあっては、と思って勝手に依頼しました。遭難扱いにはしていません。その点はよく説明をしておきましたので」とのこと。われわれの立場を考え「遭難扱いにはなっていません」と何度も断ってくれる。しかもご主人自身もわれわれの取り付いた岩場、近くのシュルントに落ちていないか、と何度も何度もシュルントに向かって声をかけて探してくれたとのこと。「申し訳ないことをしてしまった」と心が痛む。小屋のみなさん、ヘリコプターで見回りに飛んで来てくれた富山県防災航空センターの方々、関係者のみなさんには、ご心配、ご迷惑、ご苦労をお掛けるすることになってしまい心からお詫び申し上げたい。

 
9月14日(水)雨
 
吹き飛ばされそうになる強風と雨の中、お陰さまで無事に富山に帰着することができた。帰路、剣沢を登っている時10人位のパーティーが下ってくるのと出会う。その最後に居られたリーダーと思われる人が昨日、八つ峰を登っておられた方ですか、と話しかけてこられる。昨日のヘリコプターに同乗されていた山岳警備隊の方であったようで丁重にお礼を言って分かれる。
  

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雷鳥坂で。 9/10,12:29剣沢小屋 剣沢雪渓 9/10、15:30真砂沢ロッジ 真砂沢ロッジ受付
真砂沢ロッジ内部 9/11、長次郎出会いで 長次郎雪渓 長次郎雪渓 1・2峰間ルンゼ
9/11長次郎雪渓を登る 9/12、1・2峰間ルンゼ登攀開始 9/13、AM4:30ビバーグの朝 9/13、AM4:30ビバーグの朝
9/13、2峰登攀開始 4峰3の窓側懸垂下降 5峰長次郎側懸垂下降 5・6のコル、登攀終了